名古屋大学機械系の2025年夏実施の院試問題、熱工学を解いてみました.
名古屋大学機械系の2025年夏実施の院試問題は昨年と同様に5月の連休明けから公開されています.
大きく分けて2問出題されています.問題1(1)は,ピストン・シリンダ系の気体の仕事やエンタルピー変化を求める問題で,問題1(2)はジュール・トムソン効果の問題です.2問とも計算量自体はそんなに多くないのですが,出題の意図をよく考える必要があります.また,(2)では,熱力学の関係式を覚えていないと解けない問題になっています.具体的に出題内容を見てみます.
問題1(1)は,ピストン・シリンダー内の気体の状態変化に関する問題です.設問1はピストン動作による気体の仕事を計算する問題です.仕事は定義式に従いpdVを積分すれば求まります.ここでは,ピストンによる状態変化が,定圧変化になるため,圧力に体積変化を乗ずれば仕事になります.工程の順序で積分すれば,気体が成す仕事になります.ピストンA側では,体積変化がマイナスになるので,仕事もマイナスになります.これは,気体は外部から仕事を受けることを意味します.ピストンAは外部からの力で初期体積V1から0まで変化します.一方,ピストンBは,多孔質を通して流入した気体によって動かされるので,正の仕事になります.系全体としては,この2つの仕事を符号も含めて足し合わせれば求まります.設問2は,この動作中のエンタルピー変化を求める問題です.ここでは,エンタルピーを定義式に従って,内部エネルギーを使って書き表し,初期状態のエンタルピーと終了状態のエンタルピーの差を表します.そして,題意にあるように,熱力学第一法則を用いて,内部エネルギー変化を仕事で表せば,エンタルピー変化は求まります.最後の設問では,気体が状態方程式と定圧比熱一定を満足するときの初期状態温度と終了状態温度の関係を求める問題です.一つ前の設問からエンタルピー変化が算出されるので,問題で与えられた条件の状態方程式を使わずとも,エンタルピー変化から,すぐに,温度の関係も導けるので,状態方程式はどう使うのだろうかと,ちょっと考えさせられます.しかし,この問題では,実は,気体がどんな気体かと言うことは何も触れていません.設問1)と2)は,気体の種類を特定せずとも成り立つ式を使って解けます.設問3)で状態方程式を満足するという条件を与えたのは,この気体が理想気体であるということを特定したことになります.理想気体であれば,エンタルピー変化は定圧比熱と温度変化の積で表すことができ,その結果として,初期状態と終了状態の温度の関係が求まります.
問題1(2)はジュール・トムソン効果の問題です.初めの設問1)は熱力学の第一法則をエンタルピーを用いて表した式(dH=TdS+Vdp) を変形する問題です.ここでは,初めにエントロピー変化dSを全微分式で書き表し,それを使うことを考えます.エントロピーを温度と圧力の関数として,その全微分式を取ります.全微分式に現れる2つの偏微分係数のうち,Sの温度Tによる偏微分係数は,比熱の定義式から定圧比熱を用いた式で表せます.もう一方の偏微分係数であるSの圧力pによる偏微分係数は,式②中に表れる,圧力一定状態での体積Vの温度Tの偏微分係数に変える必要があります.ここで,マクスウェルの熱力学関係式を用います.マクスウェルの熱力学関係式は,ヘルムホルツ自由エネルギーとギブス自由エネルギーの定義式の全微分を,熱力学第一法則を用いて変形すると得られますが,試験中に,ここからひも解いていくのは大変なので,マクスウェルの四辺形を覚えておく必要があります.名古屋大学の熱工学の問題では,過去に2017年, 2019年夏実施の問題で,マクスウェルの熱力学関係式を使う問題が出されています.マクスウェルの四辺形は覚えておく必要があります.次の設問2)はジュール・トムソン係数を求める問題ですが,式②から,ジュール・トムソン係数の定義に従い,エンタルピー一定条件での温度の圧力微分を求めれば解は求まります.更に設問3)では,理想気体の場合のジュール・トムソン係数の計算ですが,状態方程式を使って,圧力一定状態での体積の温度微分を計算すれば求まります.最後がファン・デル・ワールス方程式を満足する場合のジュール・トムソン係数の計算ですが,これも先の設問と同様に,圧力一定状態での体積の温度微分を計算すればよいのですが,ファン・デル・ワールス方程式の形から,体積を温度の関数として表すことが困難です.逆に,式の形から温度を体積の関数として表すことは容易です.式②中の偏微分係数の計算には,相反の関係式を使えば温度が体積の関数として表された式からでも,容易に偏微分係数を計算できます.
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