大阪大学2025年実施の院試・熱力学を解いてみました。
2025年夏に実施された大阪大学機械系の院試問題の熱力学を解いてみました。
問題1(1)と(2)の2問が出題され,(1)ではピストン・シリンダ系のピストン内の気体の混合の問題です.ピストンを留め具で固定して,シリンダ内を仕切り板で分離して,気体Xと気体Yが分離されています.ピストン・シリンダ内の気体は外部とは断熱されていますが,仕切り板は熱を通します.初期状態では,気体Xと気体Yの温度は異なりますが(TY>TX),十分に時間が経過したときの状態(状態1)では両気体の温度はT1になります.最初の設問は,この温度T1を求める問題です.ピストン・シリンダ内の気体は外部とは断熱されていて,ピストンは留め具で固定されているので,体積変化もなく,ピストン・シリンダ系としては,熱量変化も仕事もないので,熱力学第一法則から内部エネルギー変化もゼロになります.つまり,初期状態の両気体の有する内部エネルギーの和と,状態1での両気体の内部エネルギーの和は等しくなり,温度T1が求まります.
次の設問は,気体Xの熱量変化を求める問題です.気体Xは体積変化がなく仕事はゼロなので,熱量変化と内部エネルギー変化は等しくなります.
次の設問はエントロピー変化を求める問題です.ピストン・シリンダ系全体のエントロピー変化ΔSは,それぞれの気体のエントロピー変化を計算して足し合わせることで求まります.エントロピー変化ΔSは,定積比熱cv,それぞれの気体の質量(mX,mY)と,気体の初期温度(TX,TY)と状態1の気体温度T1で表すことができます.この結果から,この過程が不可逆であることを示すには,ΔS>0であることが示せれば良いのですが,低温側の気体Xのエントロピーは増加するものの,高温側の気体Yのエントロピーは低減します.ΔSの式の形から,直接的にそれ見出すことは困難です.今,エントロピー変化ΔSを温度T1の関数として,T1に対するΔSの変化を考えます.状態1の気体温度T1の範囲は,TY >T1 >TXになりますが,ΔSは,T1 =TX =TYのときに,ΔS(T1)=0になります.そしてΔS(T1)の式の形からその微分が,d(ΔS)/dT1>0になることが分かります.つまり,ΔS(T1)はTY >T1 >TXで単調増加関数になります.よって,TY >T1 >TXで,ΔS(T1)>0になります.
(2)の設問は,設問(1)の初期状態を状態1としては,その後,ピストンの留め具を外します.ピストンの背面側は真空なので,気体Xの圧力によってピストンは上方に移動し,ピストンに働く重力と気体圧力が釣り合う所で,ピストンは静止します.この状態が状態2で,このときの気体の温度がT2です.状態2では,ピストンによる荷重とピストン内表面に作用する気体Xの圧力により上方に作用する力が釣り合うので,ピストン質量,重力加速度,およびピストン断面積から気体Xの圧力が分かり,気体Xの体積も分かっているので,気体温度T2は状態方程式から求めることができます.
次の設問の気体Xの仕事は,ピストンの動きに着目すれば,容易に計算できます.つまり,状態1から状態2では,ピストンは,重力が作用した状態で気体Xが体積変化した分の距離を移動するので,それらを掛け合わせた仕事を気体Xから受けているわけです.このとき,気体Xはピストンを上方に押し上げるので外部に成す仕事をしたことになり,正の仕事をしたことになります.状態2から状態3でも,同様にピストンとおもりの重力とそれらの移動距離から気体Xの仕事を求めることができます.状態2から状態3では,おもりの追加によってピストンは降下するので,気体Xには外部から力が加えられた状態になり,気体Xの仕事はマイナスになります.状態1までの正の仕事と状態2から状態3の負の仕事を加え合わせたものが,気体Xの全仕事になります.
次の2つの設問は,前設問で求めた状態3の気体温度と,状態1から状態3までに気体Xが成す仕事を,前設問で使用していたピストン荷重にかかわる量である,重力加速度g,ピストン断面積Aと,気体体積VXを使わずに,代わりに熱量に関連する量である定積比熱cvと状態1の温度T1で表すことが求められています.ピストン・シリンダの全体系を考えれば,系は断熱されているので,熱力学第一法則から仕事Wは内部エネルギー変化(-dU)に等しくなります(W=-dU).この関係から温度T3とWの式を導き,それらの式に使われているgVX/Aや,mgVX/Aを,使用が許されている物理量,T1,R,cv,mX,mY,M,m,およびT3で置き換えられれば,設問で指定された物理量で,温度T3,および Wを表すことができます.
最後の設問はmY/mX→∞のときの温度T3と仕事Wを求める問題です.前の設問で導出したT3と Wの式を,1/α=mX/mYが含まれる式に変形すれば,答えは求まります.mY/mX→∞の物理的な意味を考えますと,気体Yの質量が大きく,熱容量が気体Xに比べて圧倒的に大きくなるので,気体Y側は熱浴と考えることができ,初期状態の温度T1一定の熱源と捉えることができます.このため,熱的に接触する気体X側の温度も気体Yの温度に等しくなると考えられます.状態1から状態2の仕事と,状態2から状態3の仕事は,等温状態での仕事になり,つまり,pV=constになるので,荷重が少ない場合は体積変化が大きく,逆に荷重が増加した場合は体積変化が減少します.また,は状態1から状態2の仕事と,状態2から状態3の仕事は符号が異なるため,これらの仕事は相殺することになります.
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