阪大2024年院試の熱力学を解いてみました

大阪大学の機械系の2024年夏実施の院試問題は2026年の2月上旬に公開されました(2025年夏実施の院試問題は2026/2/10時点ではまだ公開されていません)。

 熱力学の問題は、ピストン・シリンダ系の不可逆断熱過程の問題です。外部と熱の授受が無いピストン・シリンダ内に密封された理想気体のエントロピー変化を求める問題です。設問は大きく2問で、設問(1)では、まず、断熱されたシリンダ内の理想気体が、ピストンを任意の速度で引いたときに生じる膨張過程での内部エネルギー変化とエントロピー変化が問われています。断熱条件ということで、すぐにエントロピー変化はゼロということが頭に浮かびますが、ここでは、ピストンの移動速度が準静的では無いため、可逆変化の時に成り立つ断熱の式は適用できません。では、どうするか。内部エネルギーもエントロピーも状態量です。状態量は過程の経路に寄らず、その状態にある物理量によって表すことができます。ここでは、問題文で与えられている体積と温度を使って表すことを考えれば、定積比熱の定義式と熱力学第一法則から内部エネルギーの変化が、また、エントロピーの定義式と熱力学第一法則からエントロピーの変化を表す式が示せます。この時点で、ピストンの移動速度Wは、内部エネルギー変化とエントロピー変化の式には取り込むことができず、ちょっと不安を感じますが、与えられた条件で、表現できているので、ここではピストン速度Wを取り込むことに深入りせずに次に進みましょう。ピストン速度は次の設問(2)で使うようになります。設問(1)の後半は、このピストン移動が準静的とした場合が問われています。ここは自信をもって、断熱の式を用いて、エントロピー変化の計算をすれば、エントロピー変化がゼロという答えが得られます。

 設問(2)は気体分子のピストン表面の衝突を弾性衝突と考えて、衝突の際の運動エネルギーの減少から気体の温度減少を導き、そこからエントロピー変化を計算する問題です。問題文は計算の手順を示したものになっているため、問われたことに的確に答えていくことで、計算を進めていくことができます。初めに、気体分子がピストン壁に衝突するときの運動量変化からピストンにかかる力積を計算します。運動量の法則は、熱力学というよりは流体力学の問題になりますが、基本を押さえておけば問題ありません。つまり、「運動量変化は力積に等しい」ということです。式の記述は、(下流側の運動量)―(上流側の運動量)=(流体に作用する力積)となります。この問題に当てはめれば、ピストン壁から反射した分子の持つ運動量からピストン壁に衝突する前の分子の持つ運動量を引きます。この結果は、x軸の負の方向に作用する力積になります。これは分子に作用する力積で、ピストン壁にはその反作用としてx軸の正の方向に力積が作用します。つまり、ピストン壁に作用する圧力になります。ピストンが、気体分子と同じ方向に移動している場合は、ピストン壁への気体の衝突速度は、ピストンの移動速度分減速します。このため、ピストンから反射する気体分子の速度は、衝突前の気体速度よりも減速します。この速度差による運動エネルギー差を計算します。設問(2)では、まず、ピストン移動速度は、気体分子の速度に比べて十分に遅いと仮定していますので、運動エネルギー差の計算では、ピストン移動速度の2乗項は無視しても問題ないと考えます。問題文に沿って、この運動エネルギーの減少と気体分子が持つ全運動エネルギーの比が気体の絶対温度の減少量と気体の絶対温度の比に等しくなることから、ピストン移動前後の温度比を、ピストン移動前の体積と時間の体積変化で表すことができ、その形から、この温度比の値が取りうる領域が分かります。設問2の後半は、ピストン移動速度が気体分子速度よりも十分に大きい場合ですが、この場合は、気体分子はピストン壁に、もはや衝突することなく、衝突の際に発生する運動エネルギーの減少も生じないと考えれば、ピストン移動前後の温度比はおのずと決まります。前述のピストン速度が気体分子速度よりも十分に遅い場合に比べて、この温度比の項が大きくなるため、エントロピー変化も大きくなります。

 冒頭で述べたように、エントロピーは状態量なので、変化の経路に寄らず、その状態の物理量によって決まりますが、温度は状態量でないため、変化の経路によって変わります。この問題では、ピストン移動速度がほぼゼロ(準静的)、気体分子よりも十分遅い場合、気体分子よりも十分早い場合で、ピストン移動後の気体温度が異なるため、エントロピー変化も異なるようになります。

 院試-過去問では、旧帝大機械系熱力学・熱工学を対象とした2024年夏実施までの5年分(大阪大に学に関しては、2019年から2023年の5年分)の過去問の解答集を販売しています。答え合わせ用として、また、解法の理解用にご利用ください。さらに、大阪大学の過去問解答書では、上記の2024年夏実施の過去問を含めた6年分の解答集も販売いたします。

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